画家志望と金色

【向こう】吉田絵美作品

私、画家志望の吉田絵美は金色が好きである。
黄色よりも金色だし、黄土色よりも金色が好きだ。

普通の画家は金色という名の絵の具をあまり使わない。
使うなら金箔であり、切り回しの金粉を利用する。
資金的な理由から洋箔でごまかす画家もいるだろうが、
そもそも技術力の高い画家ならば、黄色で金を装える。
金色をコンビニのコピー機でフルカラー印刷をすると黄土色に変換されるが、「金色っぽい」という錯覚を起こす上では金の絵の具を使うよりも、よほど安定した結果が得られる。

理由は単純に、絵具の金は美しくないからだ。

下の色、紙や布の白が透け、うっかりすると土留色にすら見えるのが金の絵の具というやつだ。
その上背景を金にした時、本来の画題が沈んで暗く見えるというオプションまで付いてくる。
かと言って部分的に使えば、画面がちらつき画題の邪魔をすることもしばしばある。
舞妓さんの美しさを伝えるために金糸入りの着物を金で描くのはナンセンス。舞妓さんの表情よりも着物の美しさに意識が行く結果になリかねない。
何せ金は眩しい色だが、白じゃないのだ。

光を描きたくば闇を、闇を描きたくば光を射さねば、「絵画」にならないと言う基本原則が金の扱いを難しくする。

光っていうのは無色だ。無色ってことは、紙やキャンバスの色になり、まあ大概それは白が該当する。例え眩い金色であろうと、白以外は全て影を表す色なのだ。まあ所説あろうが、私はそう解釈して絵を描いてきた。

【向こう】の製作について

【向こう】吉田絵美作品

それを踏まえて、今回の作品語りに入ることにしたい。
この絵を仕上げたのは、2020年2月中旬だ。その年のアートムーブコンクールに公募するために描いた。アートムーブは10号までの小作品を1度に3枚まで送れる公募展で、今回で4度目の挑戦となる。
この頃はとにかく気が急いて、キリキリとした痛みが頭に常にある状態だった。2月2日に搬入、9日から個展を開催というスケジュールで、うっかりと、そう、ウッカリと!この公募展のために用意していた3枚を全部個展で展示してしまったので、代わりとなる作品が必要になったのだ。
複数枚送れる公募展の時は、私は一番得意な赤背景1枚と、それと並び合わせて美しい赤以外を背景とする作品を用意することにしている。
まあ、で、私は赤と金の組み合わせがとても好きなので、このキャンバスはとにかく金の絵にしよう、と思って描き始めた1枚になる。

金の絵を描く時は、そこそこ計画性が必要になる。
前述した通り、金の絵具は面倒臭い色であるからだ。

まず下絵を描く。ここはいつも通り、浮かんだ気持ちをさらっと撫でるようにして写しとる。

【向こう】吉田絵美作品

そして、背景に黒を塗る。金は下の色が透ける。白地に塗ると、キャンバスの凸凹が強く影響してしまう。私は輝く金が欲しい。だから、これ以上の不安定を呼ばない黒で背景を塗りつぶす。この方法を取り出したのは去年の近美春季展に出品した作品からのことだ。黒は良い。だって例え下手糞にも絵の具がはみ出てしまっても、綺麗に隠し通すことができるほど、不透明な絵の具だからだ。筆が下手な画家に優しい良い色である。
さて、仕事が終わった後の、食事を終えて寝るまでの3時間の自由時間にした作業がここまでだ。残念ながら冬なので乾き待ち時間が長く、この時点で1晩寝かす。

翌晩、メイン画題に色を置いていく。まあ前述の通り、私は筆の扱いが結構下手糞な方の画家である。はみ出しが結構出てるが、最後が綺麗ならそれでいいと思っている。過程は所詮過程なのだ。描きたいものが最後に仕上がっていれば万々歳というものだ。
乾かないうちに隣の色を塗ると混ざってしまって、私の思うゴールから遠ざかるため、この作業は作業でしかないのに冬場は2晩〜5晩かかる。大変に面倒臭い。

さてここまで塗ったら、もう一度背景をきちんと黒で塗りつぶす。
そして透明な砂入りのメディウムを薄く塗りつける。

そして、乾き切って初めて、金の絵の具をパレットがわりの牛乳パックの裏に絞り出す。
今回塗り込めたのは赤金だ。メーカーを変えるだけで同じ「GOLD」でも全く表情が違う。

【向こう】吉田絵美作品

乾いたら、より輝かせるためにイエローゴールド、ラメクリア、ブライトゴールドの線を引く。いつもなら、金の線は私にとって言語野に近いものなのだが、金背景の時はそれは明瞭な過去の記憶の残滓として表面に浮いてくる。

この作品「向こう」に写したのは今の私から見た、過去の自分が抱いた心の印象だ。

冬の朝、溶け落ちた氷柱の魅せた、太陽の輝きをぎゅっと濃縮したアレである。
手も鼻も耳も、冷えて冷えて痛かった。頭は締め付けられるように痛く、肩に食い込むランドセルは捨ててしまいたいほど重かった。おばあちゃんが作ってくれたサブバックが少し濡れて、中身も重くて、腕だってだるいほどだったのに、私はあの時、小さくなっていく氷柱をどうやったら留められるのか真剣に悩んでいた。
だって氷柱本体は別に対して綺麗じゃなかった。ゴミだらけだし、排気ガスを含んで灰色だった。学校なんて行きたくなかったし、クラスメイトは私とは友達になってくれなかったから、楽しみなことなんて何もない、憂鬱な朝だった。
なのに氷柱の向こうはなんでこんなに綺麗なのだろう。なんでこんなに綺麗に思えるのか、ちっとも自分じゃわからなくて、だから持っていたかった、そんな記憶だ。

【向こう】吉田絵美作品

ガラスや水といった透明なものを描こうとすると、向こうにあるものを描くことになる。
今回の【向こう】はだから、メインよりも背景が眩しい一枚にした。
乱反射する金を見るのはとても気持ちがいい。金は豪華で豪勢で幸せな気持ちになる。

【向こう】吉田絵美作品

さて、そんな【向こう】はアートムーブ展では「入選」でかつ「アートふるなび賞」なる企業賞をいただいた。
(参照:https://www.potatochips.co.jp/artmove/10020.html)
2020年7月9日から京都市にある『ビストロシェモモ』にて展示中だ。いつまでなのかはわからないけれど、とりあえず近いうちに食べに行かせてもらおうと思っている次第である。
他に→【潜る】と【誘引】を同時に展示して貰っているので、お近くの方は是非足を運んでみていただければ幸いである。

ビストロシェモモの食べログ(すごく美味しそう)

さて、起業家セミナーで教わった通り、「日々の自分を全て書いて晒していけば、貴方は画家になれるでしょう」という、なんかの宗教みたいな言葉に則って、こんなどうでも良すぎる話を一体誰が読むだろうかと悩みつつ、書き散らさせていただきました。苦情も何も受け付けませんので悪しからず。1通打つのに1時間以上悩んでしまうのでコメント返信はいたしません。申し訳ありません。

ではでは本日はこれにて。お付き合いありがとうございました!

(2020.4.3 & 7.9執筆【向こう(管理No.F10_2020_GOLD_01)】)

吉田絵美 画家志望日記

SNSでもご購読できます。

コメントを残す

*